約 3,886,999 件
https://w.atwiki.jp/83452/pages/17902.html
● 4月22日 晴れ 課題の計画を立てた。火曜日辺りに終わるようにする。 パソコンに慣れていないので、とっても時間が掛かりそう。 人差し指でしか打てないから、早く慣れなきゃいけないな。 説明書を片手に頑張る。 晩御飯は、たまご料理にした。 たまごを使ったものは高校時代につくったことがある。 だけど、あんまりおいしくなかった。 でも、食べられればいいかな。 最近いつも、ある人と目が合う。 誰なんだろう。 ● あの子の名前は、秋山澪というらしい。 ただ私の友達三人は秋山さんと話したことはなく、入学式前の点呼でそう呼ばれていたのをたまたま覚えていただけだと言うのだ。 それに、私もこの十日間たまに秋山さんを見ていたけど、誰とも喋ってはいないみたいだったし、ずっと一人だった。 一人で講義室に入ってきて、一人で講義を受けて。 もしかしたら、一人でお昼を食べてたりするのかも……。 私は頭の中で、その光景を想像してしまった。 それが、なんだか嫌だった。 例えば仮病で休んだ時に、友達たちが心配してくれた時のような気持ち。 自分は嘘偽りで楽をしているけれど、でも皆は私を心配してくれているみたいな。 言いようのない罪悪感というか、そういうものがモヤモヤっと体を浸しているのを感じる。 だから、ほっとけないんだよなあ。 次の日、私は秋山さんを昼食に誘うことにした。 私たち四人グループと一緒に食事を取るのだ。 私はそれを実行に移すため、講義室の後ろの方で友達にその話をしていた。 すでに講義は終わっていて、この後昼食の時間である。 私は友達三人に、少し小さめの声で宣言した。 「というわけで、秋山さんを昼食に誘ってくるよ」 「りっちゃんかっこいいー」 友達が茶化した。 「でもさあ、秋山さんそうホイホイとりっちゃんに付いてくるかなあ」 「というと?」 「だって普段一人でいる子が、私たちの仲良し四人組に突然誘わて一緒に食事なんて、正直苦痛でしかないと思うんだけど」 一理ある。 もし私が秋山さんだったとしたら、すでに出来ているグループに突然混ざって食事なんて精神的にきついはず。 そりゃそうだよなあ……仲のいい人たちに、普段は一人ぼっちな子。 どうしたって気疲れしちゃうかな。 私は唸った。 そんな折、友達の一人がポンと思いついたように手の平を叩いた。 「そうだ。別に私たち三人はいらないじゃん」 「――えっ?」 えっ、としか言えなかった。 「そーだね。りっちゃんと秋山さんは二人っきりで学食行ってきなよ。そうすれば多分秋山さんも気が楽だよ」 呆気にとられて、よくわからなかった。 えっと、つまり……私はさっきまで秋山さんを、私たち『四人の』食事に誘おうとしていた。 でもそれだと秋山さんが大変だから、二つのグループに別れようというわけだな。 友達三人のグループと、私と秋山さんの二人っきりのグループ……。 なるほど。 ん? なるほど、じゃない! 「ってマジかよ! それ今度は私も結構精神的に来るじゃねえか!」 「いいじゃーん、意中の秋山さんと二人っきりなんだよ」 い、意中って……。 「そ、そんなんじゃねーし……」 意中とか、そんなんじゃないけど。 でも、今までとなんか違うぞ私。 だって、今までだって一人ぼっちの子を何かに誘ってきたじゃないか。 ドッジボールでも野球でも、一緒にお絵かきでも。 何でもかんでも一緒にやろうよって誘ってきたじゃないかよ。 別に誰かと二人っきりになったことだってあるじゃないか。 なんで今さらそれに戸惑ってたりしてるんだ? 視線の先の秋山さんは、講義が終わって片付けをしていた。 「じゃあ、私たちはお先に失礼するねー」 「頑張ってねーりっちゃん」 「遠くで見てるからねー」 思い思いのことを言って、友達三人は講義室から出て行った。 いつもならここで何か返すけれど、その時ばかりはそうも行かなかった。 今、講義室には私と秋山さんしかいない。 秋山さんは私になんか目もくれず、筆記用具なりを片付けていた。 なんかドキドキしてた。 ありえないだろ。別に好きな子に告白に行くわけでもないんだぞ……って私誰かに恋したことなかったわ……。 まあでもそういう気持ちは想像できるっていうか……。 なんていうんだろう、怖いんだけどそうしたいみたいな。 好奇心とも違うし、怖いもの見たさでもないし。いやそもそもそんなのとは全然違うし。 あーもう自分がよくわかんないな。 こんなの初めてなわけじゃないのに、でも初めてみたいな気持ちが湧き上がってくる。 なんか、話しかけたいなって思っただけだから。 緊張してるだけだよな。 私は片付けを黙々としている秋山さんに声をかけた。 「あっきやっまさーん!」 私の快活な声。 秋山さんがこちらを見た。 目を丸くしている。片付けの手が止まった。 私は近づいて、自己紹介する。 「どーも。私、田井中律!」 名前を告げる。元気な声で。 さっきまでは緊張してたけど、一回声を出してみたら意外と頭にいろんな言葉が浮かんできた。 あとは適度に秋山さんに言葉を促して、私らしい明るさで声を出すだけだ。 「秋山澪ちゃん、であってるよね?」 「あ、えっと……は、はい」 初めて声を聞いた! 反応してくれたのが無性に嬉しい。 秋山さんは、話しかけられてるのに慣れていないのか、それとも突然声を掛けられたことに驚いているのか表情を強張らせている。 はい、という返事にさえ戸惑うように、迷うように目を泳がせている。 実際一瞬だけ目が合っただけで、あとはずっと目を泳がせてばかりだった。 視線を合わせてくれない。 だけど仕方ないと割り切って、私は本題に移った。 「ねえ、一緒にお昼食べに行こうよ。秋山さんも、食堂でしょ?」 「えっ……その……いいです」 遠慮されてしまった。でも、これは当然の反応だ。 もし私が秋山さんだったとして、見ず知らずの奴に食事に誘われても遠慮の言葉しかでないだろう。 だけど、ここで引き下がるのなら私の名が廃るってものさ。 「いいからいいから! ほーら、行くぞ」 秋山さんが荷物を持ったと同時に、私は彼女の手を掴んだ。 そして半ば強引に引っ張る。 「ちょっ待って……」 「早く行かないと日替わりデザートなくなっちまうからな!」 私は、秋山さんの手を掴んだまま走り出した。 秋山さんは、振り払おうともせず。 ただ私と一緒に食堂に走ってくれた。 走ってくれたっていうか、私が引っ張っただけか。 食堂には、何種類かのテーブルがある。 中央の方には、長い机がいくつかくっついたような大人数で座れるタイプの席。 その周りには、四人掛けが出来る程度の席。 そして、窓際の方は主に二人で向かい合って座れるようなタイプの席がある。 食事を共にする人数によって席を選り好みできるというなかなかいい食堂だ。 普段なら友達三人と私で、四人掛けの席に座って昼食を取る。 でも今は秋山さんと二人っきりなので窓際の二人席についた。 「秋山さんは、和食好きなの?」 私は尋ねながら、秋山さんが食べている和食セットを見た。 ご飯にお味噌汁、それと焼き魚というもう本当に和食というセットだ。 「……どっちでも、ないです」 「じゃあなんでそれを選んだの?」 「……適当です」 それだけ言って、また箸を動かしはじめた。 うーん、簡単に会話が終わっちゃうなあ。 そりゃほぼ初対面の人と会話をしようという気にはならないよな。 第一秋山さんにとっては無理やり連れてこられたようなものだし……私が無理言って相席してるようなものだから。 暗いとも明るいとも言い切れない。 でもどちらかといえば陰りのある顔で黙々と食事する秋山さん。 私はといえばきつねそばを食べているのだけど、でも全然箸は進まなかった。 次は何を聞こう、何を言えば秋山さんは話してくれるんだろう。 そればかりに頭が行っていた。 「ねえ、秋山さんはどこの県出身?」 とりあえず話しやすいのは相手の素性だ。 別に隠す必要も無いような、むしろ話題性になるのはそういう出生だったりの話。 だてにいままで友達をたくさん作ってきたわけじゃない。 自分なりにスキルみたいなのを手に入れてるんだ……というのは、嘘で。 でも『相手が私なら』って考えた時、どんな質問なら答えやすいのか考えたらこういう質問しかないと思うからだった。 「……――県、です」 あまりにも馴染んだ県名だった。 「え? 私もだ」 「……そうですか」 秋山さんも一瞬驚いたような、感心する様な目をしたけれど、やっぱり受け流すような態度で受け答えした。 だけど、共通点が見つかったんだ。これを会話のタネにしないわけにはいかない。 「すごい、偶然だな! ちなみに、高校は?」 「桜ヶ丘、です」 「――マジ?」 何の冗談だこれ。 「……私も、桜高だ」 「……そう、なんですか」 さすがの秋山さんも、箸を止めて私を見た。 お祭りのビンゴ大会で、特等を取ったような気持ちだった。 実際そんなことはなかったけど、でも。 なぜか偶然でもなんでも、それがピッタリあってるっていうか。 言ってることめちゃくちゃだけど、でも。 偶然にしちゃ出来すぎてるっていうのかな。 たまたま一人でいるから、気になって。 それで誘ってみた。 それだけのに、出身の高校が同じだなんて。 よくわからない――でも、どちらかといえば嬉しさみたいなのが湧きあがってきた。 でも、私の記憶に、秋山さんは存在しなかった。 「もしかしたら、すれ違ったりとかしてたかもしれないなあ」 「……そうですね」 また目を伏せた秋山さん。 そしてまた食事を始める。 ……喜んでるわけじゃないのかな。 そりゃそーだよなあ。 だって勝手に運命めいたことを感じてるの私だけだもん。 話しかけてるのも私だけだし、気になってたのも私が一方的にそうだっただけだろうし。 別に秋山さんからすれば私との共通点なんてどうでもいいよな……。 でも、嬉しいのは事実なんだ。 気になってた子と一緒にご飯食べたり。 実は出身が同じって。 なんか、高揚しちゃうな。 「……できればだけど」 「……?」 「本当に嫌ならそう言ってくれればいいんだけどさ」 私は、提案した。 とりあえず、名字で呼ぶのはちょっと。 友達っぽくない、だろ。 「澪ちゃんって、呼んでいい?」 私が緊張して言うと。 秋山さんは、箸をぴたっと止めた。 そして、上目遣いに私を見て。 戸惑ったように、また目を泳がせて。 数十秒して。 コクリと頷いた。 ● 4月23日 晴れ 今日は大変だった。 田井中律って子に話しかけられて、一緒にご飯を食べた。 そんなの初めてだったから、あんまり上手く喋れなかった。 田井中さんに嫌な思いさせちゃったかな。 絶対そうだ。ごめんなさい。 同じ高校出身だというのは、とても驚いた。 だけど一度も同じクラスにはなったことが無いと思う。 なったことがあるのなら、忘れることはできなさそうな人だから。 初めてパパとママ以外の人に下の名前を呼んでもらった。 嬉しいという気持ちがないわけじゃないけど、でも恥ずかしかった。 晩御飯は、レンジで温めるだけのタイプのものにした。 課題は順調だったけど、でもちょっと苦しいかもしれない。 今日はなんだか体の調子がおかしかった。 田井中さんと話したからかな。 今日は日記が長くなってしまった。 3
https://w.atwiki.jp/83452/pages/17906.html
澪ちゃんは、ずっと恥ずかしそうにしている。 言ったよな? 今、いいって言ったよな? 聞き間違えじゃあない。いいですって言ったんだ。言ったよな? 聞き間違いか? いやでも、澪ちゃんがこんなあっさり? いやでも確かに――ってあああ。 頭が混乱してきたぞ。 でも。 ずっと願ってた願いが叶った時とか。 桜高や、N女子大に受かった時とか。 そういう類の嬉しさが湧き上がってきた。 いや、それよりもずっと――。 「ありがとっ! 澪!」 「あ……は、はい」 澪ちゃんは俯きつつも、笑ってるのがわかった。 「じゃあさ」 「はい?」 「澪も、私のこと、律って呼んでよ!」 私が呼び捨てなら、そうであってほしかった。 私は、澪と対等になりたかったんだ。 一人ぼっちだったから寂しいだろうと思って話しかけたとか、私の質だとか、性格とか。 引っ込み思案で静かな澪と、お調子者で明るい私。 性格の違いはあったって、そこに価値と程度、身分なんてものはないんだ。 澪に――田井中さんだなんて、呼んでほしくないよ。 敬語だって、使ってほしくなんかない。 友達だから。 澪だから。 「えっ、でも……」 「だってさ……まるで私が年上みたいじゃん。同い年だし、友達だし。だから、澪にも――律って、呼んでほしい」 ああ、もう。 対等になりたいなんて、格好つけてるだけだ。 表面上、取り繕ってるだけだ。 理由を作っておきたかっただけだ。 本当は。 澪のその口から。 澪のその声で。 ただ、呼んでほしかっただけ。 私の名前、呼んでほしい。 それだけで。 「……り、律」 ● 4月26日 晴れ 誰かの名前を、呼び捨てで呼ぶことになったのは初めてだ。 私の名前を、呼び捨てで呼んでくれたのも律が初めて。 律は、私の初めてをどんどん奪っていく。 律。 人の名前を呼び捨てできるって、こんなに嬉しいんだなあ。 そんなの今までなかった。友達なんて誰もいなくて。 皆名字で呼んでたし、私も名字で呼ばれていたし。 それでもよかったけど。それで構わなかったけど。 でも、呼び捨てって、なんか暖かかった。 律と距離が、近くなった気がした。 嬉しかった。 たかが呼び捨てで、なんでこんなに舞い上がっちゃうんだろう。 律って呼ぶこと。澪って呼んでもらえることが、こんなにも。 律のことを思い出すと、胸が詰まる。 なんだろう、この気持ち。 ● 澪とメアドを交換した。 思えば話しかけてもう五日も経つけれど、電話番号もメールアドレスもお互い知らないままだった。 だから、お互いを呼び捨てにして、澪も敬語をやめた今日という日に初めてそれを交換したのだった。 嬉しかった。 夜になって、澪とメールする。 文面だけだと澪の表情は見えないし、ぎこちない恥ずかしそうな口調もない。 だけど前よりも会話が成立するようになってきていて、私としては笑わずにはいられなかった。 澪の心が伝わってきてる、ってのは言いすぎかなあ。 私は、どうしたんだろう。 誰かとメアドを交換することなんて今まで何度もあった。 電話番号を教えてもらうことだって何度もあっただろうさ。 澪が初めてじゃない。 私は、今までたくさんの人と仲良くなって、メールもして、電話もしている。 だけど、こんな気持ちになったのは、初めて、か? メアドを交換して。 家に帰って、その相手からメールが来るのをウキウキしながら待つなんてありえなかったよな。 別に誰かがメールしてくるのを待つことはあったかもしれないけど、でもこんなにドキドキしながら待つなんて――。 澪は、今までの誰とも違う。 私が今まで相手してきた誰とも違う。 気になってしょうがない。 頭に澪の顔が浮かんでしょうがないんだよ。 (どうしちまったんだ、私……) でも、悪い気はしなかった。 あー、胸痛い。 こんなに悶えることなかったよなあ。 澪に会ってから、初めてなことばっかりだ。 澪とメールする。 私はロフトの布団に寝転んで、画面を見つめてやり取りした。 画面の向こうに、澪がいる。 「澪はどうして、N女子大を選んだの?」 「先生に紹介されたんだ。女子大がよくて」 『だ』にすごい違和感。もともと澪はこういう口調なのかもしれなかった。 ただ人見知りが激しいから誰構わず敬語を使っちゃうだけで。 やっぱり文章に文字を書くだけなんだから、そこまで気構えないんだろう。 もし澪が日記でも書いていたら、もっと自然体の澪の言葉が書かれてあるかもしれない。 それこそ『です』というような言葉遣いではなく、もっと普通の言葉遣いで。 「わかる。私も女子大がよかったんだよな。別にこれっていう強い理由があるわけじゃないんだけど」 桜高を選んだ時と同じだった。 小学校低学年ぐらいまでは、男の子と一緒に遊んだりすることも多くて、男女の隔たりなんてものは特になかったし。 だから女子高とか、共学とかどうでもよかったかもしれない。 でも、女子高の方が楽しいかなというぐらいの理由だったような気もする。 そんなにちゃんと覚えてはいなかった。 「私は、男の人が苦手で」 ズキっとした。 邪推をしてしまったのだ。 私は手早く返事する。 「もしかして、男と付き合ってて嫌な思いしたとか?」 自分で質問してて、実は自分が一番そうじゃなかったらいいなと思っていた。 「ううん。男の人と話したことは全然ないよ」 あまりに普通の返事――いや、男と話したことはないというのは普通じゃないか? それでもなんとなく自分の邪推が外れて嬉しかった。 澪が男と並んでいる姿を想像するだけで、無性に胃の辺りがチクチクしやがるのだ。 それが外れてホッとしている自分がいる。 「じゃあ、なんで?」 「男の人だけじゃなくて、もう誰と話すのも苦手なんだよ。だから、女子大で、あんまり他人と交流しなさそうな学科がよかったんだ」 私なんかよりはるかに理由がしっかりしていた。 あんまり他人と交流しなさそう――。 確かに私と澪のいる学科は、どちらかといえば自分の独学……他人とのコミュニケーションが重要とまではいかない。 自分一人で研究したり、授業を聞いてたりテスト受けたりと、一人でいたって何ら差し支えのない学科であるのは確かだった。 文系学科と割り切ってしまえばそこまでだけど、でも自分の性格と嫌なことをきちんと踏まえて学校を選んでいる澪は、私よりもしっかりしてるなあって思った。 「だから、ずっと一人でいたの?」 私は、思い出していた。 入学式で見た澪を。 それから説明会でも、教室移動でも、講義が終わって帰る時も。 いつだって澪は一人だった。 ずっと無表情で。 それでも、見惚れるような涼しい綺麗な顔で――。 だけど、時折ふっと目を細めて寂しそうにしたり。 それがたまらなく私の心を揺さぶったり。 「人と極力話したくないから、一人でいたんだ」 澪は、そう返事してきた。 メールって、不便だ。 私は、澪の表情が見えない。 声のトーンも強弱も、全部そこにない。 だから、怖い。 話したくない、と返事する澪の顔がわからない。 笑ってたら、いいんだよ。 でも、もし悲しそうだったり辛そうな顔でそんなこと言われたら、私は居た堪れない。 だってその『話したくない』んだ。『ない』は否定だ。 澪は話したくないと言ってるんだ。 それが私に対してじゃなくとも。 「私とは、話してくれるのか」 そう返事を送った。 純粋な疑問だった。 人とは極力話したくない――。 その『人』の中に、私は含まれてないとは言い切れないんだ。 信じれなくて、ごめん。 表情が、見えないから。 疑っちゃうよ。 ごめん。 携帯の画面から目を逸らす。 少しして、バイブする。 恐る恐る画面を見る。 「律は、特別」 ――。 この時ばかりは自分の単純さに、呆れるしかなかった。 さっきまでちょっとモヤモヤしてたくせにさ。 その文章を見ただけで、サッとそれが引いてしまった。 「ありがと。私も、澪みたいな奴初めてなんだ」 「どういうところがなの?」 澪は、私にいろんな初めてをくれたけど。 それがなぜかって言われるとわからない。 一人ぼっちに話しかけたのは何度目でもあるけれど、でもここまでずっと一緒にいたいと思える相手に出会えたのは初めてだった。 笑ってくれるだけで心を満たしてくれる相手というのも初めてだったし……とにかく、今までの誰とも違うんだ。 澪のこと考えると、ズキズキしやがるんだよ。 こんなの初めてなんだよ。 でもそれを正直に言うのは、恥ずかしくて。 私は枕を抱き寄せながら返事した。 「わかんないけど、でも私にとっても、澪は特別」 それから、他愛もない話をした。 いろんな話をした後に、澪からこんなメールがやってきた。 「明日、律の家に遊びに行きたい」 7
https://w.atwiki.jp/bacouple/pages/411.html
11月 2015年 Clochette いちゃラブゲー せせなやう 保住圭 和泉万夜 姫ノ木あく 深山ユーキ #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (hight=120) 原画:せせなやう 企画原案、プロット、シナリオ統括:保住圭 シナリオ:保住圭、姫ノ木あく、和泉万夜、深山ユーキ 13 :名無したちの午後:2015/11/23(月) 21 15 12.78 ID 8QdaNHXe0 ここ夏は体験版やった感じだと安定だと思う 保住っぽさが出てる 56 :名無したちの午後:2015/11/30(月) 19 25 31.35 ID 9luo2F8P0 ここ夏、寿ルート終わったけどクロシェ特有の謎バトルとか無くて驚いた 他のルートもこんな感じなのかな 67 :名無したちの午後:2015/12/02(水) 23 03 42.24 ID Q2zh1EtP0 ここ夏、いろはルート終わったけどざっくり感想 おそらく担当は保住 シリアスっぽくなる雰囲気はあるけどいろはの性格もあって暗くなることはない ラストの解決方法は結局イチャつくこと(それだけではないけど) てな感じで個人的には満足。ただ、付き合い始めてもいろはのテンションは全く変わらず そこに「いつもの保住」がプラスされる感じなのでいろはの性格が合わない人にはきついかも 自分はこういうキャラ好きなのでとてもニヤニヤさせていただきましたw 68 :名無したちの午後:2015/12/03(木) 13 17 42.56 ID 8ayfEeYW0 イチャイチャラブパワーで問題解決型のシナリオは良いよね。 69 :名無したちの午後:2015/12/03(木) 20 11 58.07 ID PiPduBWN0 ここ夏は アリカ「うちの妹とSEXをして孕ませてあげてほしいの!」 二人「「なんで!?」」 アリカ「そしてその時の様子をぜひ私に教えて!」 二人「「なんで!?」」 アリカ「レポートにして全世界に発表するわ!」 二人「「やめて!?」」 のやりとりは不覚にも笑ってしまった ここ夏は11月作品ではなかなかおすすめ 今までのクロシェット作品ダメだった人でもいけると思う むしろクロシェット作品ダメだった人のほうが気に入るかも 78 :名無したちの午後:2015/12/05(土) 16 18 18.19 ID rEoZSaod0 ここ夏アリカルートをやってると思う 「あなた」呼びは最高だなと 二人称かつ深い関係って感じだから ラブラブ度が増してると思う 81 :名無したちの午後:2015/12/05(土) 17 07 59.68 ID nnsEqi4M0 ここ夏はキャラ萌えゲー?イチャラブゲー? 83 :名無したちの午後:2015/12/05(土) 17 49 59.65 ID kR72XTeD0 81 いちゃラブ要素のあるエロい萌えゲー、かな? でも無駄シリアスがないからプレイはしやすい ここの住人なら十分楽しめると思うよ 133 :名無したちの午後:2015/12/09(水) 18 46 14.81 ID o6uxR8P80 ここ夏は保住なのでギャグはあんまりない キッキンみたいにまったりゆるゆる進む感じ なので人によってはつまらないと感じるかもね 840 :名無したちの午後:2016/04/01(金) 21 51 36.62 ID mH2tPdn60 11月 ここから夏のイノセンス ○ エロいしいちゃラブもしているしシリアスもほとんどない シリアスもほとんどない これまじ? 841 :名無したちの午後:2016/04/01(金) 22 26 12.39 ID 9fdIWHJ20 840 書いてるの保住だからな 設定はすごいシリアス臭がするけど、中身はかわいい女の子と田舎生活おくるだけやで 842 :名無したちの午後:2016/04/02(土) 06 51 40.92 ID WYpPzGOR0 時代が違う娘とくっついても結局別離とかないしな 844 :名無したちの午後:2016/04/02(土) 08 29 22.40 ID d+MVZW8B0 サキガケの事を考えるとここ夏は原画も違うし 企画とかプロットからバトルとかシリアスはなかったんじゃないかね 845 :名無したちの午後:2016/04/02(土) 09 18 34.24 ID MdvxGTZG0 ここ夏は企画原案・シナリオ総括・プロットまで全部保住だからな 846 :名無したちの午後:2016/04/02(土) 09 48 54.05 ID HtjoyyNC0 ここ夏は体験版で損してる感じはあったな 序盤の主人公ウジウジしてて微妙だし 891 :名無したちの午後:2016/04/05(火) 23 41 33.14 ID GLtsiLxj0 876 俺も確認したら、4/4の更新履歴にびびったw 編集してくれたナイスガイGJ 設定でなんとなく食指が動かなかったここ夏、 840辺りからのレス見て興味が出てきたんで 土曜に回収してぽつぽつ進め始めたんだけどいいねこれ 丁度いろは√終わったとこだけど 全身で大好き表現してくるいろはに 手つないだり頭なでたりぽっぺたむにむにしたりして応えてやると 本当にうれしそうにしてくれるもんで 終始ニヤニヤしっぱなしだった 186 :名無したちの午後:2016/05/06(金) 03 19 51.02 ID lrQu/KDs0 ようやくここ夏終わった・・・ ユノルートは無駄シリアスありじゃね?ユノルートを一番最後にしたこともあってイラッっとする 展開が何度かあったわ。あの指令はいろはルートとも矛盾するしどうしてああなった プレイ順 実績 寿→いろは→アリカ→ユノ 推奨 ユノ→寿 or (いろは→アリカ) いろはルートもアリカルートの後にやるとイラッっとする可能性がありそう 191 :名無したちの午後:2016/05/06(金) 13 26 03.95 ID ZOgXMVhF0 186 あと寿ルートも尻アス無駄すぎが指摘されてたな 該当部分担当ライターと思われる和泉万夜はグロ抑えてもエロテキスト補強要員以外の仕事は結局切ない系だからな それでも全体としてはサキガケプリコレよりはイチャ部分の長さは確保しているという しんたろー新作にも一応サキガケから参加してる保住はいるっぽいカンジだがメインじゃないし あそこの声優やライターの選択傾向だと籐太辺りもパクリやらかして(メーカーに代わって謝罪こそはしたが)ラノベに逃げた森崎の代わりに和泉と一緒かどちらか片方入ってそう 193 :名無したちの午後:2016/05/06(金) 14 20 39.40 ID lrQu/KDs0 191 寿ルートは一番最初にやったためかあまり気にならなかったわ。ただし終わり方がちょっと不満 いろはルートで東奔西走した事案がアリカルートだと1シーンで片付けられているのもちょっとね・・・ まぁシナリオディレクションが微妙なクロシェットだからと言ってしまえばそれまでなんだけど もったいないとは思う イチャてきにはいろはとアリカが良かったかな。いろははひたすらべたべただし、アリカは真っ白だし 194 :名無したちの午後:2016/05/06(金) 15 15 08.91 ID H+PeR1gT0 ここ夏はサブルートながらも紅緒がストライクだった メインヒロインとは違いシナリオあってこそのキャラ設定と言う訳じゃないけど 恋人として関係を深めていく部分に焦点を当てれば魅力的なイチャラブ描写が出来そうな良いヒロインだった まああくまでオマケルートなんだけど 195 :名無したちの午後:2016/05/06(金) 16 42 31.46 ID DdU8h+KT0 ずっとここ夏みたいな作品作ってくれればいいのに 196 :名無したちの午後:2016/05/06(金) 17 03 33.00 ID oRUrXLqv0 基本的にクロシェットのシナリオは終わってるからね あまみそあたりからホントダメダメだったけど絵師変えたらシナリオも変わって良かった良かった SMEEにしてももう少し遅らせて何がなんでもあめとゆきとスケジュール調整して彼女に今回の絵をいつも通り任せれば良かった(今回はシナリオも不安だから問題それだけじゃないけど) 613 名無したちの午後2016/10/15(土) 09 21 38.64 ID odNoAVzL0 ここから夏のイノセンスが壮大な設定と見せかけていちゃラブしかないと聞いて気になってる 未来から来たとかの設定はシリアス感がするんだけど 614 名無したちの午後 2016/10/15(土) 10 10 15.92 ID U1nh1/kN0 主人公は落ちこぼれで僻地に飛ばされたみたいな設定だったよな、イノセンス なんか赤い髪の常識人ぶってる純粋な子が一番エロいとかそういうのを聞いたような 616 名無したちの午後2016/10/15(土) 10 15 41.59 ID GomKJG9H0 軽くネタバレになるけど主人公にイチャラブさせるために送り込まれたようなものだから結構良かったよ 序盤はなんか主人公の劣等感がウザいけど乗り越えてからは割りと問題ない 618 名無したちの午後2016/10/15(土) 10 22 25.95 ID 2Ugr6Tsj0 613 クロシェット=御敷仁・しんたろーと考えてる人には評判悪かったみたいだが このスレにいるってことはイチャイチャしてるかを重要視してるってことだよな そういう意味じゃ、保住が企画から関わっているだけあって全く問題ない 俺も設定のせいで二の足踏んでたが、このスレでお勧めされて手を出したクチだよ 615 ここ夏についてだったら、別離は一切ないぞ 別離→エンディングで再会とかいうのもない 一旦くっついたらくっつきっぱなしだ 619 名無したちの午後 2016/10/15(土) 10 54 51.17 ID 3jt6rR+80 一緒にいるために二人+周りの人たちと頑張るって感じだしな 別離は一切ない
https://w.atwiki.jp/83452/pages/17918.html
■ 三連休だった。 今まで祝日は律と一緒にいたけれど、律を突き飛ばした挙句、講義をさぼって逃げた。 さらにメールも電話も無視した手前、少しだけいつものように律と会うのは居た堪れない。 だから今回の祝日三連休は律とは会わないことにした。 私は律に今ものすごく会いたい。でも、律は怒ってるんじゃないだろうか。 そう思ったんだ。 三連休の初日の今日は、建国記念日の十一日だ。 バレンタインまで、あと今日含めて三日。 十四日には、律は『理学部の子』と食事をするんだ。 もしかしたら、律との恋が成立してしまうかもしれない。 二人がくっついてしまったらどうしよう。 だからって、どうしようかも全然思いつかなかった。 結局お昼の十二時までは、寝たり起きたりしていた。 でもやっぱり、律の顔は浮かんでくる。 それだけで胸は痛いのだけど、でもやっぱりふわふわした気持ちはするのだ。 (……詩) ふと、頭に浮かんだ。 私は文芸部で、詩を書いていた時期がある。 あの時は意味不明な、よくある言葉の模倣でしかなかった。 (……作詞) 今は『詩』ではなく、『詞』なのかもしれない。 一応、音楽やってるわけだから。 律とやってて、いつかは歌詞を書いてみたいと思ってた。 それが今、ふと思い出されたのだ。 私は、布団からのそりと出て勉強机に向かってみた。 適当なルーズリーフに、ペンを走らせる。 不思議なほどに、言葉が溢れてきた。 律を見てると、胸がドキドキする。 ふわふわしてるし、暖かい。 (君を見てると――) 好きって昨日自覚して、さらに眠れなくなって。 夜が切なくなった。 (好きになるほど――) もう少し私が勇気を振るえば、何かが変わるのかもしれない。 昨日みたいに、恥ずかしいから逃げるんじゃなくてさ。 (何かが変わるのかな――) でも、律を見るとやっぱり恥ずかしさで顔が真っ赤になりそうだ。 そうなると、普通に話すのはどう考えても難しい。 だからって段取り考えたって、それは全然自然でもない。 (全然、自然じゃないよね――) でも、話したら。 なんとか話せば。 その後は、どうにかなるよな。 だって律といるのは、楽しいし嬉しいから。 私に笑顔を、たくさんくれるから。 (どうにかなるよね) 「書けた……」 律の事考えてたら、律の事だけで歌詞が書けた。 これに曲をつければ、もう立派な曲になる。 もちろんバンドなんてないのだけど。 私はルーズリーフを机に置いて、それを見つめた。 ……恥ずかしい歌詞かもしれない。 律に歌詞を書いてみたよって言ったら、笑われちゃうかな。 それも、いいかもな。 タイトルは、どうしようかな。 「ふわふわ……タイム」 ふわふわ時間。 それはまさに、私が律と出会って送った日々のことだった。 律と恋人同士になりたい。 そんな想いは、どんどん膨れ上がっていた。 ■ 2月11日 くもり 澪、怒ってるかなあ。 メールもしたし電話もしたのに、応答がないってことはそうだよな。 今までずっと一緒にいたのに、バレンタインは他の子となんて。 私の馬鹿野郎。大馬鹿野郎だ。 最初に澪が、行けばって言ったから、少し頭にきて。 「これでいいかよ」なんて煽ったけど、私馬鹿みたいだな。 いや、実際馬鹿だ。本当に馬鹿だ。 馬鹿律。マジで情けない。 でも下宿まで行ったら迷惑だろうな。 会いたいな。でも、そっとしておいた方がいいのかな。 ってか、澪の奴鈍感だよなー。 気付けって。私の気持ちぐらい。 澪、大好きだよ。 日記に書いても意味ねーよ私も。 ■ 私はその日も、カレンダーをまず見た。 (……12日、か) あと二日で、律は律のことが好きな『理学部の子』と食事をする。 私の頭の中に、その場面が浮かんでくる。 バレンタインということは、その子は律にチョコレートをあげるだろう。 場所が一体どこかはわからないけど、食事ということはどこかのレストラン……。 だとしたら別にチョコレートを渡すぐらい差支えないだろうなあ。 その子は多分手作りでチョコを作って、律にそれをプレゼントするんだ。 律はそれを、多分少しだけ嬉しそうに受け取る。 そういう場面だと律は、絶対嬉しく思っちゃうんだ。 律だけじゃない。 私だって、自分の事好きだと言ってくれる人がいたら、少しぐらい喜ぶかもしれない。 大好きな人が他にいたって、でもありがとうって思うことだってある。 もし律以外の人が私にチョコレートをくれて、好きだと私に言ってきたら……そりゃ、少しは嬉しく思ってしまうだろう。 だけど、律にはそうなってほしくない……。 わがままだけど……自分勝手だけど。 私は勉強机に伏せった。 溜め息が漏れる。 律は今頃何してるんだろう。 そして私は、今何やってるんだ? 昨日書いた歌詞を見つめた。 ……律の事が好き。 気付いたけれど、余計に悲しい。 こんなに好きになるのなら、もっと早く出会いたかった。 一緒にいられなかった時間を想うと、悲しい。 悲しいのは、この気持ちに気付いてしまったからだ。 随分前に律も言ってた。 もっと早く出会いたかったって。 ずっと同じ学校だったんだから。 なぜ出会えなかったんだろう。 出会っていたかった。 そしたら、いろんなことができたのに。 考えるだけ無駄かな。 だけど、もしもっと早く出会っていたら……。 そう考えちゃうんだ。 (……はあ) もう考えるのはよそう。 いろいろと考えることや、悩ましいことはある。 だけど、それより私はやりたいこともある。 明日は材料を買ってこよう。 ■ 2月12日 くもり まだ澪と連絡が取れない。めちゃくちゃ寂しい。 もう家に行ってやろうかな。でも、迷惑だよなやっぱりさ。 私は午前中、DVDを見て過ごした。 もし澪が私に怒ってるのなら、やっぱり食事会を了解したことかな。 そうだとしたら、澪も私の事、少しぐらいは……。 当たって砕けろともいうか。 もし澪が私のこと好きじゃなくても、私は澪の事大好きだから。 食事会に行った後、澪には気持ちを伝えよう。 そのために明日はデパートに行こう。 家で何度か作ったことはあるけど、誰かに渡すなんてのは初めてだな。 ■ この時期になると、デパート内の書店にはチョコレート作りの方法が書かれた本のコーナーが作られていた。 今時の女の子が読むようなキラキラした本もあれば、主婦や料理を趣味にする少しばかり真面目な感じの本まである。 デパートは、三連休の最終日だけあって混んでいた。 私はそのチョコレートの本……お菓子作りについての本のコーナーの前で、ウロウロしていた。 買おうか買うまいか迷っているというのもあるし、どれを買えばいいのかもさっぱりだった。 そういうのには果てしなく疎い。 去年の四月に、律の家で料理を作って食べさせた。 そしたら、大失敗だった経験がある。 あれ以来私は律とよく料理と作って、律にいろいろ教えてもらったりしていた。 私は本当に下手糞で、律を呆れさせてばっかりだった。 律が毎回微妙な顔をすると、私は申し訳なかったり、なんでできないんだろうって悔しくて泣いたりもした。 でも律は、そんな私を慰めてくれてた。 ずっと一緒にいて、料理の練習を手伝ってくれた。 おかげで、私も随分と料理はできるようになった。 もちろんまだ律には及ばないし、ときどき失敗もするけれど。 だけど、私も成長したんだ。 これから、チョコレートを作る。 もしおいしくできたら、律は喜んでくれるのかな。 私は、真面目そうなお菓子作りの本を買った。 袋を手に提げて帰る途中、ふとコインロッカーのある一角を通る。 (……ここ) そこは、律が私を助けてくれた場所だった。 あの時は、律はカチューシャをはずして私を呼び捨てするものだから、本当に誰だか分からなかった。 テレビで見るどんな端整な男の俳優よりもかっこよくて。 私はずっと怖くて泣いていて、助けてくれたことよりも怖さがあったから、触らないでなんて言ってしまったけど。 でも、律だってわかった途端、安心したんだ。 抱きついたりもして。 今考えると、相当恥ずかしいけど。 でも、嬉しかったし、律の事大好きになった。 あの時は、友達としての好きだったかもしれない。 今は、友達としての好きもあるけど。 恋愛感情として、好きなんだ。 だから、私は律にチョコレートを作らなきゃいけないんだ。 想いを伝えたいんだ。 律のこと、好きだよって。 家に帰って、お菓子作りの本とにらめっこしながらチョコを作った。 いろいろ大変だったけど、できた。 明日だ。 ■ 2月13日 くもり チョコレートを作ること自体は慣れていたので、簡単だった。 もうレシピは頭の中に入っている。手順も完ぺきだ。 でも、それを好きな人に渡すとなると、私は急に緊張した。 澪に喜んでほしい。笑ってほしい。そう考えるとやる気は出た。 澪は今、何をしてるんだろうなあ。 メールも送ってないし、電話もかけていない。 だけど、明日会えるんだ。 明日、どういう風に顔を合わせればいいか迷うけど。 いつも通りに接して、食事会も早めに切り上げて。 澪の家にでも行くかな。 どうにかして、チョコをあげたい。 好きだって伝えたいしな。 私のことを好きだって言ってくれる子には、申し訳ないけど。 出会った時からもう、澪って決めてるから。 澪のことしか、好きにならないから。 19
https://w.atwiki.jp/83452/pages/17919.html
■ バレンタインの前日の夜。 理学部の子と名乗る子から電話が掛かってきた。 『……秋山さんですか。私は明日田井中さんを食事に誘った者です』 まるで犯人の犯行予告のような抑揚のない平坦な声色だ。 しかしそれでも、どこかゆったりとした雰囲気も感じる。 緊張しているのか、それとも元よりこのような感じなのか。私には彼女という人を全然掴むことができなかった。 私は部屋の中央に立ったまま、電話を耳に当てている。 とりあえず質問が浮かんだ。 私は極度の人見知りであるが、電話やメールは顔を実際に合わせているわけではないので幾分か声は出た。 「どうして私の電話番号を?」 『田井中さんに、××さんを通して教えていただきました……どうしても、秋山さんと二人でお話ししておきたくて』 理由がわからない。 それがどうにも気になる。 もちろん私は律とバレンタインを過ごすことができる彼女に少しばかり嫉妬しているけれど、でもそこはもう諦めていた。 私は律にただ気持ちを伝えたい。 だから明日チョコレートを渡して、想いを伝える。 それで十分だ。 そりゃやっぱりバレンタイン律と一緒がいいなあとは思うけど……でもいろいろと割り切っている部分もある。 いつまでも溜め息を吐いていられない。 「なぜ、私と?」 『電話じゃ伝えにくいですね……やっぱり直接会って、お話しませんか。 明日の四時半に、大学の中庭の噴水で待ってますので』 「えっ? でも、律と食事会に行くんじゃ……」 講義が終わるのが四時。だとしたら、あんまりうかうかしていられないんじゃないのか? もう食事をする場所……例えばレストランなんかの予約が取ってあるって言ってたから大丈夫だとは思うけど。 でも、早いに越したことはないし、私なんかと四時半にわざわざ約束して、話している余裕があるのだろうか。 なんか不思議というか、よくわからないな。 もう律に近付くな、とか言われてしまうのかも。 そりゃ彼女が律のことが好きだというなら、いつも一緒にいる私はある意味で邪魔だし、快くは思わないだろう。 だからって。 律は、渡したくない。 私は目を閉じ、そう心の中で言う。 そのまま耳を傾けた。 『田井中さんとは、五時に待ち合わせしてるんです。ですから、四時半に会いましょう。すぐにお話は終わります』 五時か。なら、あんまり話は長引かないだろう。 さっきも考えたけど、もうあんまり律に近付くなってことかな。 ……いや、まだ彼女と律が付き合い始めたわけじゃないんだ。 ただバレンタインで食事を一緒に取るだけじゃないか。 お付き合いが始まったわけじゃあないんだ。 落ち着け私。 電話の向こうに、明日、律と一緒に過ごす相手がいるんだ。 顔も名前も知らない。 だから、私は携帯電話を持つ手が震えていた。中途半端に手汗もかいている。 もともと人見知りな質だ。 だけど、この居心地の悪さはそんな私の性格から来るものではない。 単純に、相手への嫉妬と……自分の情けなさと、緊張と。 よくわからない感じが渦巻いてる。 律を取られるんじゃないか。 そんな不安だった。 律に限って、そんなことはないと思うけど。 私がそう考えているということは、律がこの子を振ってくれるんじゃないかって密かに期待してるってことだ。 馬鹿澪だ。 最低だ。この子は律のことが好きなんだ。 でも心の中で、振られちゃえって思ってる……。 律に私を選んでほしいと思ってるんだ。 ……やっぱり私、わがままだな。 そう考えて息を吐いた。 頭に、言葉が浮かぶ。 それを言うべきか言うまいか、一瞬だけ迷った。 『これ』を言うことは、彼女にとっていい気持ちじゃないだろう。 私から彼女への宣戦布告、はたまた独占欲の滲み出る醜い言霊かもしれない。 私がそれを彼女に告げたら、彼女は私を笑うのだろうか。 少しは、プレッシャーを感じてくれるのだろうか。 耳に当てている電話を握り締める。 私は彼女に告げた。 「――律は、渡さないからな……っ」 律は、私のだ。 ……まだ違うけど、でも負けたくなんかない。 誰にも、渡したくなんかない。 彼女に失礼かもしれないけど。 でも、これが本音だ。 静かになった。 私はやはり失礼だったかもと思って、次に彼女が出してくる言葉が怖かった。 沈黙の向こうが何を考えているのかわからない。 私はそれでも穏やかに待った。 数秒後。 『……さすが、秋山さん。そう言うと思ってました』 笑いを含んだような彼女の声に、私は何も言えなかった。 さすが? そう言うと思っていた? 言葉に迷っているうちに、彼女は続ける。 『……大丈夫ですよ。私は、田井中さんをあなたから奪い取ることなんてまったく考えてません』 「えっ――?」 思いがけない言葉に、私は思わず声をあげてしまった。 『ですから、私は田井中さんと付き合いたいとは少しも考えていないということです』 「ど、どういうこと……?」 私から奪い取る気はつもりはない。 律と付き合いたいわけでもない。 何を言ってるのだろう。 元々律は私と付き合っているわけじゃないから、律が彼女と付き合いだしても私から奪ったことにはならない。 彼女は、私と律がすでに付き合っていると勘違いしているのだろうか。 確かに誤解されるぐらい常日頃に一緒にいるけど……。 そう考えると、結構恥ずかしいな。人前で……あんなに一緒にいたんだ律と。 いや。 そんなことを考えている場合じゃない。 私の考えていることとは逆の言葉……律と付き合う気はないという言葉に安堵したのか、 そして頭の中でいつも一緒にいる私と律の記憶が再生されて、肩の力が抜けたのがわかった。 震えていた指先も、今はきちんと携帯電話を握っている。 しかしまずます訳がわからない。 律のことが好きなら、律と付き合いたいと思ったりするのは当然だ。 ……私なら、そう思う。 でも彼女はそうじゃないと言っている。 本当に不思議な子だ。 喜んでる私がいる。 でも、明日律と一緒に食事をするのには変わりないんだ。 それだけが引っかかっている。 『もう一度言いますよ。私は田井中さんとお付き合いしたいとは思っていません。 あなたから田井中さんを奪おうなんて気持ちは少しもないんです』 「……どうして?」 『それは明日、話しましょう』 一辺倒すぎる声。私と違って、彼女はとても落ち着いていた。 『それと、この電話の内容は絶対誰にも言わないでください。明日噴水前に四時半ということも、何もかもです。 とにかく電話で話した内容は他言しないでください。特に田井中さん』 「わ、わかりました……」 『ありがとうございます。では、明日頑張ってくださいね』 「――」 何も言えないまま、電話は切れた。 私は無音が響くそれを耳に押し当てたまま、数秒間佇んでいた。 頑張ってくださいって、何を? 明日頑張ることって……私が、律にチョコを渡して想いを伝えることしかない。 それを、彼女は知らないはずだよな……? でもまるで知ってるかのような確信を持った言葉。 頑張ってください、か……。 私は少しだけ、勇気をもらった気がした。 恋敵のはずなのに。 とにかく、明日だ。 二月十四日。 世の中のいろんな人が、いろんな人にチョコをあげる。 想いを告げる人だっているだろう。 どうか私と律に、幸福がありますように。 ■ いつも通り大学に行くと、いつも通り律がいた。 「おはよ、澪」 「……おはよう、律」 私は先週、律を突き飛ばして逃げ帰り、そのままだった。 だから律には申し訳ない気持ちで一杯だった。 律も多少は怒ってるんじゃないかって思っていた。 だけど、律はそんなのも忘れたようにケロッと笑っているのだ。 私は拍子抜けすると同時に、優しすぎる律に泣きそうになった。 律は、本当にいつも通りだった。 講義が終わったら、あの子と食事に行くくせに。 そんな兆候も微塵と見せない。 いつも通り優しく笑ってる。 「行こうぜ」 「……うん」 いつも通りのはずだけど、ほんの少しだけ静かだった。 廊下を歩いている間は、全然話さなかった。 講義室に入っても話さない。 私はチラチラと律を見てしまう。律と何度も目が合った。 その度に、恥ずかしくなって目を逸らすのだった。 何を私は緊張してるんだ……。 緊張してるのは、当たり前だ。 私は、今日の内に律に告白するんだ――。 だからこんなにも、落ち着けなくて。 律の方が気になるんだ。 講義の間も、律は比較的普通だった、気がする。 でも、いつもよりそわそわしているように感じた。 律はいつも講義をいい加減に……というよりも、外見だけはあまり真面目ではない空気がある。 頬杖を突いて、いつも眠そうな横顔を見せているからだ。 でも今日は、お気に入りだという黄色のペンでたまにチャカチャカ机を叩いたり…… そしてやっぱり何度も私と目が合うのだった。律も私を気にしてるのかな……。 いつも通りに隣に座っている。 でも、糸がピンと張っているように張り詰めた雰囲気。 講義中だからそりゃ静かなものだけど、でもいつものように穏やかではなかった。 何より体に力が入る。いつものようにちょっと力を抜くようなことができなかったのだ。 私は人差し指のお腹のあたりを親指で何度もさすっているだけしかできなかった。 熱があるんじゃないかと思うほど、額も熱い。 講義は、ノートこそ真面目に取ってみるものの頭にはまるで入らず、教授の言葉は右から左へと通り抜けて行っていた。 ただ頭には、律にどうやって告白しよう。そしてどうやってチョコレートを渡そうかの段取りを決めることだけしかなかった。 ふわふわ時間には、段取り考えてる時点で、もう駄目だと書いたけど。 でも、頭でその状況を思い描かなければ、とてもその時になって言葉など出てきそうもなかった。 実際、律のことを好きだと自覚してから、先ほどのおはようしかできていない。 今までは、律のことを好きだと思っても、それは恋愛感情ではなく、友達としてだと思ってたんだ。 だから、律のことが恋愛として好きだと自分が知っている状態で律と話すのは、多分もっと緊張する。 口下手になる。 想いなんて、伝わりにくくなってしまう。 私に振り向いてもらいたい。 もしあの子が、律と付き合う気がなくても。 律に、私を好きになってほしいんだ。 だから、頑張るんだ。 精一杯想いを伝えるんだ。 それから、いつものように食堂の窓際の席で、律と一緒に昼食を食べる。 この席で昼食を食べることは暗黙の了解と化していたので、まったく言葉を交わさなくても私たちはここに座り、昼食をとっていた。 それでも、お互いが頑なに喋らない。 だけど、最初に沈黙を破ったのは律だった。 「……澪」 「……何?」 律は、食事会の事もあるからかあんまりお腹を満たすようなものは頼まなかった。 先週と同じハンバーガーだ。しかもそれ一つだけ。 私は突然の呼びかけに、やっぱり声は出なかった。 だけど、律と話せないのも心苦しくはあったので、絞り出すように返事はできた。 「講義終わったら、どうすんの澪は? やっぱり……帰るのか?」 実は『理学部の子』と四時半に噴水で待ち合わせしているのだけど、それは言ってはいけない約束になっている。 特に律には言うなと念を押されているから、なんとか誤魔化さなければいけなかった。 だけど、上手い嘘が思い浮かばなかった。 第一、律の前で酷く緊張しドキドキしているのに、まともな嘘など吐けそうもない。 第一なぜ誰にも言ってはいけないのかよくわからないのだ。 でも一応言われているのだから、言ってはいけないんだろうな。 私はなんとか言葉を捻りだした。 「……帰るよ。律は食事会だし、特にやることもないし」 嘘だ。 しかし、一瞬だけ律は表情を失くした。 でもすぐに笑う。 「そっか。わかった」 寂しそうに目を細めて、ハンバーガーを食べるのを再開した。 私は、どうしようもないけど。 でも嘘をついたことはちょっとだけ申し訳なかった。 後で嘘をついたことは謝るしかない。 問題は、いつチョコレートを渡すかだ……タイミングが全然掴めない。 誰かに物をプレゼントすること自体が、私には慣れないことなのだ。 律には何度も物を渡したことはある。初めてあげたあのオススメの文庫本もそうだ。 だけど今度ばかりは違うんだ。渡すことや、それを言うことによって。 ……関係が崩れちゃうことだってあるんだ。 それが、まだ怖いままで。 想いを伝えるんだって昨日から、何度も意気込んでる。 確かに意気込んではいるのに、でも友達でも親友でもいいから、関係が続くのなら告白なんてしなくてもいいんじゃないかって怖いんだ。 私は、律しかいない。 だから律を失ったら、私はまた一人だ。 いや……違う。 一人に戻るのが怖いから、律と関係を崩したくないわけじゃないんだ。 純粋に、律と離れたくないよ……。 でも、食事会がどうとか、××さんに恋愛感情がどうとかって話されてから。 もうそんなのが抑えきれなくなって。 このままで私は満足かって、全然そんなことなくて……。 恋人になりたいなって気持ちもどんどん出てきたから。 だからこうして、鞄にチョコレートを潜めている。 どうにかして渡したい。 律に受け取って欲しい。 できるならば、律と付き合いたい。 恋人同士になりたい。 律は私の事、好きじゃないのかもしれない。 たくさんいる友達の中の、一人かもしれない。 だけど、私にとってはたった一人なんだ。 いろんなことを教えてくれたし、私の初めてばっかりの律。 だから特別な律と、もっと特別になりたい。 こんなこと思える相手も、律だけだから。 20
https://w.atwiki.jp/83452/pages/17923.html
律に、チョコレートを突き出した。 いつだったか、確か読んでいた本を見せてと言ってきた律に、似たような格好でそれを渡したんだっけ。 あの時の私は、本を渡すのさえ恥ずかしくって。 だからあんなに大げさに本を渡したりしたのだろう。 あの時と、やっぱり変わらない。 でも、あの時とやっぱり変わってることもある。 渡したい。 その一心から、私はチョコレートを差し出してるんだ。 私たちはチョコを手に持って、相手に差し出したままお互いを見つめている。 「ほら、澪……受け取ってよ」 「律こそ――……はい」 交換した。 律のは中身は見えないけど、私の手の平より少し大きい。 丁寧な包装は、律の家庭的なところもよく出てるなって思った。 律は、私のチョコレートの包みを両手に掴んで笑った。 「帰ってから、ゆっくり開けるぜ」 「……私もそうする」 律からの、チョコレート。 家でなくても、とにかく大切に、慎重に扱いたかった。 律は持っている包みに視線を落とし、残念そうに口を尖らせて唸った。 「あーでも、もったいないなあ……せっかく澪が手作りでくれたのに」 「私も、同じ気持ちだよ。律のチョコレート美味しいだろうけど……でも、食べずにずっと残しておきたいよ」 「それこそもったいないぞ? 大したもんじゃないしさ」 「いや、本当に嬉しいよ……まさか律も、私のこと好きだなんて全然、思わなかったからさ」 本当に思っていなかった。 もしも律も私を好きだったら、好きだったらいいな。 いやでも、あり得ないだろうなって。 そんな風に、完全な片思いだと思ってた。 「馬鹿澪。私が澪を好きにならないわけないだろ?」 律は目を細めた。 「それに、私もさ……澪も私のこと好きなわけないだろうなって、思ってたし」 恥ずかしがって、後頭部を撫でる律。 そんなこと。 「馬鹿律。私が律を好きにならないわけないだろ?」 私は絶対、律に恋する運命だったんだろうなって思う。 どの世界であっても。 雪は、ただゆっくりと落ちて、アスファルトに溶けた。 積もることはなさそうだけど、綺麗だった。 私は律に言った。 「なあ……今日、律の家に泊まっちゃ駄目か?」 四月に出会って、十カ月。 私は何度も律の家に泊まったけれど、今日からは意味が違う気がした。 律の恋人として、泊まることになるんだ。 今までは、友達として泊まった。それも楽しかったのは事実だし、律と一緒にいて楽しくないことなんかない。 でも、いつも律と一緒にいると、なぜか切なくなったり、 律を見ていてドキッとすることもあったり、胸がズキズキすることもあったんだ。 それがなぜかは、今までわからなかった。 わからないまま、ずっと律と一緒にいたんだ。 でも今は、それが恋だと知っている。 律への想いだってことを、私自身が知っているから。 だからそれを悟った今、律の家に泊まってみたいと思った。 友達としてから、恋人として。 あの胸の痛みが何なのか分からない不安も、私は快く受け入れている。 むしろ、そんな痛みやちょっとズキズキするのは、恋だとわからなくて…… それを律へ伝えられないことへの不安の痛みだったと思う。 だから、私は律が好きだと言えてよかった。 律も好きだと言ってくれた。 だから、痛みはない。 「なんで今更そんなこと聞くんだ? いいに決まってんだろ!」 思ったほど、律があっさりと返事をくれて私は一瞬驚いた。 だけど、よくよく考えてみればそうだった。 聞くまでもなかったかな。 両想いだってわかって、チョコレートも交換して、恋人同士になって。 それでも、私たちはあまり変わらないのかもしれない。 ■ 私と律は、手を繋いで噴水の縁に座った。 さっきは距離があったけど、今はすぐ隣でくっ付いて。 「来ないな、あの子」 「……そうだな」 二人で空を見上げながら囁いた。 白い吐息。 私は思い出したように、口を開いた。 「そういえば言ってたよ、あの子」 「何を?」 「『私は田井中さんと付き合う気はありません』、 『秋山さんから田井中さんを奪う気はありません』って」 私は昨日の電話を思い出す。 律のことが好きなら、なぜそんなことを私に言ってみせるのかわからなかった。 「なんだそりゃ。それじゃまるで、私たちの気持ちを知ってたみたいな口ぶりだな」 律がそう言った。 そうなのかもしれない。 その子は私の律への、そして律の私への気持ちを知っていたんじゃないか。 だからあんなことを言って。 そして。 「……もしかしたら、その子、ここにはもう来ないかもしれないな」 私は、そうポツリと漏らしたのだった。 時刻は、四時四十五分。 約束の時間は、もうとっくに過ぎていた。 ポケットの携帯電話が震えた。 「……メールだ」 「あ、私もだ」 律も携帯電話を取りだした。 私たちは顔を見合わせる。 受信ボックスを開くと、そこには奇怪な文字列が並んでいる。 もし知り合いだったらそこには名前が表示されるはずだった。 だけど、このメールは名前じゃなくて直にメールアドレスが表示されている。 ということは。 「知らない人からだ」 「私も」 また視線を合わせる。 私と律はメールを開いた。 そこには、ただ一言だけ書いてあった。 私と律の、それを読み上げる声が揃った。 「お幸せに!」 ■ 2月14日 晴れ 今まで生きてきて一番嬉しかった日だった。 まさか澪と、恋人同士になることができるだなんて。 今でも顔が熱いし、嬉しさを隠すことができない。 嬉しすぎて、字が震える。声を上げたいぐらい嬉しい。 いや実際上げてる。 本当に嬉しい。 澪は、私のことをどうとも思っていないかもしれない。 そう悩んだことは何度もあった。 むしろ、私のことを煩わしく思ってるんじゃないかって。 怖かった日もあったけど。 でも、澪は泣きながら言ってくれたんだ。 私が好きって。 私も泣きそうになって、嬉しくて、キスした。 澪も受け入れてくれて、ずっとそうしてた。 理学部の子は、来なかったけど。 澪の話を聞いたら、私と付き合う気はないと言っていたらしい。 もしかしたら私と澪をくっつけるきっかけをくれたのかもしれない。 実際食事会に誘われなかったら、私は澪に一歩踏み込もうとは思わなかった。 彼女には、申し訳ないけど感謝してる。 今、この日記を書いているすぐ横に、澪がいる。 恋人になって、初めて一緒に夜を過ごす。 なんだか恥ずかしくて、見つめあっては笑ってみたいなのが繰り返されてる。 でもそれでも幸せだ。すっごく幸せだ。 澪、大好き! 私もだぞ、律 ■ バレンタインから五日後の土曜日。 私は、喫茶店に入った。 駅前にあるお店なのだけど、少し地味な印象がある。 それが理由かはわからないけれど、正午前なのにあまり人はいなかった。 私はあまり人混みが好きじゃないので好都合だと思う。 穏やかで落ち着いたような雰囲気の店内。 私は、私の探していた子が窓際の席に座っているのに気付くとゆっくり近付いた。 「おはよう、ムギちゃん」 その子は私を見上げて、目を細めた。 「おはよう、唯ちゃん」 彼女――ムギちゃんはいつものようなぽわっとした笑顔を見せた。 私も微笑み返して向かい側に座り、その後注文を聞きに来たウェイトレスさんにオレンジジュースを頼んだ。 ムギちゃんはすでに紅茶を頼んでいたようで、ムギちゃんの手元には湯気の沸きたつカップがある。 私のオレンジジュースはすぐにやってきた。 私はあまり駅前には慣れていないので少しだけ歩き疲れていて、喉も渇いていた。 もし家なら、コップを思いっきり傾けてゴクゴクと飲むのだけど、人はいないにせよ公共の場だ。 私は少し控えめに少しだけコップに口を付けるだけに留まった。 喉と体が少しばかり潤ったのを感じる。 私がコップをテーブルの上に置くと同時に、ムギちゃんは口を開いた。 「唯ちゃんご協力ありがとう」 「えっ? ……ああ、あれのこと?」 私は『協力』と聞いて、ある事柄を思い出した。 この一年間、私はムギちゃんのある計画……というと少しばかり悪く聞こえるけれど、 ムギちゃんの目的に少しばかり協力したのだった。 数日前も、ムギちゃんは私にあることをやってほしいとお願いしてきた。 私はそれに快く応じたという経緯がある。 「お礼なんていいよ。私もあの二人は早いとこくっつくべきだと思ってたんだ」 「そうよね! 私もあの二人を見ててキュンキュンするわ」 ムギちゃんはキラキラと輝いた瞳と、跳ねるように高揚した声で言った。 手を胸に当てて、誇らしいような満足そうな表情をしている。 ムギちゃんが『女の子同士の恋愛』を好むのを知っていたけど、ここまで嬉しそうなのは初めてだ。 やっぱりあの田井中さんと秋山さんををくっつけることに成功したからかな。 「唯ちゃんも見てたでしょう? あの澪ちゃんが、大声で『律が好きだ』なんて言ったのよ! そしたら、りっちゃんも大胆にキスまでしちゃうなんて……ああ、思い出しただけで鼻血が出そう!」 今度は両手の指を絡めて握り、それをほっぺに当てて酔ったように目を閉じた。 なんかもう見てて、すごい嬉しいんだなあというのが伝わってくる。 ムギちゃんは元よりそういう女の子だ。 特に女の子同士の恋愛の好きな度合いは抜きんでているなあとつくづく思う。 そんな表情を見ながら、私も言った。 「私もよかったよ成功して。前にね、一度だけあの二人に会ったことがあるんだけど、もうお互いをすっごく意識してたんだ。 田井中さんなんか秋山さんが玄関から入ってきた時ね、ちょっとだけ顔を赤くしてすっごく嬉しそうな顔をしたし、 秋山さんは、私と田井中さんが話してるのを見てちょっと不安そうにしたりね」 私はあの日のことをよく覚えている。 自動販売機でジュースを買おうとしている田井中さんに話し掛けてみたのだった。 前々からムギちゃんに『田井中律ちゃんと秋山澪ちゃんをどうにかしてくっつけたいの』 と聞いていたから私もなんとなくどんな二人なのか興味を持っていた。 だから二人の様子を見てみようかなあと思ったのだった。 田井中さんは気丈で明るい子。そして、秋山さんは人見知りなようだった。 そして私と田井中さんが話していたのを見て、ちょっとだけ戸惑っていたようにも思うなあ。 申し訳ないことをしたなあと今は反省してる。 でも、結果的にあの二人は恋人同士になったのだからよかった。 「それより『理学部の子』の役、ありがとね」 ムギちゃんは少し落ち着いたように言った。 「うん。緊張したなあ……だって秋山さんと一度会っちゃってたからね。 だから、もしかしたら声でバレちゃうかと思ったけど、でも大丈夫だったよ」 私はまた、数日前の出来事を思い出した。 そして、ムギちゃんの考えた一連の計画のことも頭に浮かべた。 24
https://w.atwiki.jp/83452/pages/17921.html
どういうこと? なんで××さんと平沢さんは、あそこで私を――私たちを見ていたのだろう。 見ていたんだろうか? でも、私と目が合ったってことは見ていたということだ。 なぜ私たちを、あんな所から観察していたのだろう? それに××さんは――『理学部の子』と律の仲介役だったじゃないか。 だとしたら、待ち合わせまで三十分の時点であんなところにいるのはなんだか不思議じゃないか? それとも、何か用があって……。 二人は、私に何をしたんだろう。 手を振って、親指を立てた。 ほとんど交流もないのに、私に何かを伝えるつもりだったのかな。 何かって……? 何だろう。 二人の行動が、頭にリプレイされた。 手を振って、親指を立てる? それって。 それって。 まるで、頑張れと言っているような。 昨日もだ。 『では、明日頑張ってくださいね』――。 『理学部の子』は、そう言ったんだ。 何を頑張るのか、わかんなかったけど。 でも、私自身が知ってるんだ。 私は、私の想いを伝えることに頑張ろうとしてた。 律のことが、好きだって。 じゃあ、『理学部の子』も、××さんも平沢さんも。 それに対して、頑張れと言ってくれたのかな。 そんなの、都合良すぎるかもしれないけど。 何より、雪が、綺麗だったから。 言える、気がした。 私は唇を舐めた。 息を呑む。 雪を見上げてる律。 私は、名前を呼んだ。 「――律」 ■ 律は、空に向いていた視線を私に下ろした。 数秒の視線の交錯。 名前を呼んでおいて、黙っていたら変だ。 だけど、それからしばらく見つめあっていた。 自分でも驚くほどに落ち着いていた。 だけど、異常なほど緊張していた。 自分で自分がわからない。 とにかく、私は今、自分の心を描写することはできようとも、それが正しくできないという状態だった。 私という人間の内面を、客観的に遠くから見降ろし、それがどうであるという風に説明ができない。 できたとしても、語彙が足りない。 それぐらい、落ち着いているのに、緊張してる。 小さな矛盾だけど、律の前じゃ仕方なかった。 「……なんだよ?」 「っ――」 落ち着いてた、はずなのに。 声を聞いたら。 なんだよって、言われたら。 急に恥ずかしさが身に染みてきて、唇と瞼が震えてきた。 「えっと……その……」 ここまで来て、躊躇うなんて。 一体どこまで憶病なんだと心の中で自分を罵るしかなかった。 名前を呼ぶだけはできたのに。いざ言おうってなると、そうはいかなかった。 まるで言葉が意志を持っているかのように、出たくないよと喉で止まるのだ。 口を開いて見せはするのに、えっと、とかそんな風にくぐもった声しか出ない。 彷徨に胸がどぎまぎし始めた。 けど。 私は、怖いんだ。 律に想いを伝えれなかった、もしもの未来を考えるだけで。 そんなの、嫌だ。 私は、律と恋人同士になりたい。 散々悩んだじゃないか。 チョコレートだって作って。あんなに頭抱えて、ズキズキする胸を撫でて律のこと想い続けたじゃないか。 朝起きても、ご飯食べてても、寝る時も、ベッドの中でもさ……いつだって、律のこと好きでいたじゃないか。 歌詞も書いて。 それで時折、誰もいない部屋で、ひとりごととして囁いてたじゃないか。 その言葉を。 ふとした時、独白のように、そう口に出してたじゃないか。 その言葉を、ポツリと。 だから、言えるだろ。 私は心の中で言い聞かせた。 そして。 「――……好き」 思ったよりも、声は出た。 律は、口を小さく開けっぱなして、固まった。 だけど、構わなかった。 私は、そこからなら何でも言える気がしたんだ。 一言目が怖かっただけで。 少しでもきっかけが掴まれば、私は私の言葉を口に出すだけだったんだ。 「律のことが、好きなんだ」 言えた。 言えた! だけど、言えたことへの嬉しさはすぐには湧いてこなかった。 それどころじゃない。 すごく恥ずかしい想いの方が先行していたのだ。 だから私は律の顔を見ることはできない。 律の顔を見たら、それ以上の言葉が出ないかもしれなかった。 もう一杯一杯だ。 でも、精一杯でやるしかないんだ。 私は拳を胸の前で握り締めた。 この、張り裂けそうなほどに、爆発しそうな高鳴りを。 私の咽の震えと、訴えるまでに高らかな声に変えるしかなかった。 それは、私の精一杯、そして限界を超えるほどの叫びだった。 「好きなんだっ……――」 辛かった。苦しかった。 律を想うと、毎日息が苦しかった。 喉が渇いた。 お腹の上のあたりがグルグルした。 モヤモヤもした。 何か引っかかってるんじゃないかってくらい、調子が悪くなって。 胸が痛くて。 喉も震えて。 ぼんやりしたり、ぼーっとしたり。 だけどふとした瞬間、律を思い出して。 律の笑顔を見たくなったり。 家に帰って一人なのが、寂しかったりもした。 唐突に律に会いたくなって。 布団に入っても、明日律と一緒にいることを楽しみに思えたり。 そこでまた、胸がキューッと縮まって。 ふんわりした気持ちにもなって。 だからこそ、この気持ちが何なのかわからなくて。 もどかしくて。 それで悩んだ毎日もあった。 でも、律を意識してから。 律がそこにいなかったり、別の誰かのところにいたらモヤモヤするのも。 そこにいるだけで、一緒にいるだけで楽しくて。 好きだから。 律のこと、誰よりも好きだから。 だから、いつも胸が一杯で苦しかったんだ。 だから叫びあげた。 中庭に人がいようが構わなかった。 言いたかったんだ。 律に届けたかったんだ。 だから、力一杯、叫んだ。 今まで生きてきた中で、一番声を張り上げたかもしれない。 それぐらい、大きな声で。 「好きなんだよっ……! 律のことが、律が、大好きなんだ……! 私は下を向いた。 アスファルトの地面が広がる。 そこに、ポタポタと何かが落ちるのが見えた。 雪が降っているから、雨じゃない。 それが、涙だと悟るのに長くはかからなかった。 いろんな感情が溢れだして、グチャグチャで。 なんで涙が出たのかわからないけど。 私は大泣きして、両腕の服の袖でとにかく涙を拭った。 叫びは、私の心の壁も壊したようだった。 張り詰めていた糸がプチンと切れて、それを境にいろんな想いが溢れて。 それが、涙という形となって私の頬を濡らす。 それは頬じゃ留めきれなくなって、地面に落ちる。 「うっ……ひっく、っ……うぅ……――」 情けない自分の声が、漏れた。 服の袖で顔を撫でる度に、そこはどんどん濡れていく一方で。 拭っても拭っても、涙は止まらない。 やっと言えた。 言えた。 律に好きって、言えたんだ。 それが嬉しくて、泣いてるのかな。 わからない。 でも、わからなくてもいい。 言えただけで、もうよかった。 もう後は、どうなってもいい。 涙が流れることだけ、考えよう。 そう思ったけど、もう頭に思考の隙間はなかった。 ただ、喘いで、咳き込んで、泣くだけで。 何も考えれなかった。 その時だ。 「みーお」 優しすぎる声がした。 涙で、目も耳も、何もかもがぐちゃぐちゃでわからない私。 だけど、その憎たらしいほどに優しくて、私を痺れさせる声を、私は聞き逃すことなんてできやしなかった。 こんなにも、今の私は酷い顔をしていて、そして頭の中もかき乱れているというのに。 その声だけ――私の名前を呼んでくれる…… こいつの声だけは……しっかりと耳が捕まえたのだった。 22
https://w.atwiki.jp/83452/pages/17916.html
■ 次の日、バスから降りると誰かが傍に近づいてきた。 「おはよう、秋山さん」 「あ……」 話しかけてきたのは、××さんだった。 ここ最近いつも私と律の会話に入ってきて、理学部の子の言伝を伝えてくる××さんである。 昨日律をカラオケに誘っていたのもこの人だった。いや、昨日のはあのメンバー全員かな? 私はこの人に何度も会っているけど、実際に二人だけで話したことはなかった。 名前もお互い知っているのに、呼び合うような仲でもない。 実際私にとって、律以外の誰かを名前で呼び合うような間柄の人は誰もいないのだ。 バス停からは約徒歩五分ほどで大学に到着する。 律はいつも大学の学部棟の玄関で私を待っていてくれるので、すでに先に行っているだろう。 私は××さんと一緒に、大学までの道のりを歩くことになってしまった。 なぜこの人がバス停で私を待ってくれていたのかわからない。 彼女は私と並んで歩きながら、話題を吹っ掛けてくる。 「……秋山さんは、りっちゃんの事どう思ってる?」 「えっ?」 どうしていきなり律の話題が出るんだ。 「ど、どう思ってるって……」 突拍子もない話題。関連性のない話題。 ここ最近毎日律のことで頭や胸が詰まりっぱなしだった私は、余計にその話題が提示されたことに反応してしまった。 ドキッとして、変な声を出してしまう。 彼女は楽しそうに話している。 私は緊張しているけれど、彼女はニコニコして言葉に淀みがなかった。 どう思ってるって? それはどういう意味なんだろう。 友達っていう関係の事? 優しい奴だとかかっこいいし美人だとかいう外見的な私の評価? どれをとったって『私が律をどう見ているか』『どう思っているか』の項目にあてはまるだろう。 彼女の意図しているのはどれなんだ。 「そうね曖昧ね……うーん」 「……」 「りっちゃんの事、好き?」 直球すぎて、私は頭を殴られたような気がした。 「すっすす好きって……?」 「恋愛感情としての、好きかってことよ?」 「れ、れんあい……」 聞き慣れない単語に、私は狼狽した。 れんあいかんじょう? すき? 私は今まで友達もいなかった。まして恋愛など一度もない。 だから私にそんな気持ちがあったとしても、それが果たして恋愛感情で、相手のことを好きであるという気持ちなのかの判別さえ付かないのだ。 だから彼女の質問だけで、はい、いいえの判断は自分ではできなかった。 「……わかりません」 「ふうん……」 私がそれだけ返すと、彼女は納得したように頷いた。 そして思いついたように人差し指を立てた。 「じゃあいくつか質問するね。それで私が、秋山さんのりっちゃんに対する感情が一体何なのか判断してあげる」 なぜそこまでするのだろうか。 時折彼女がとても楽しそうにするのが、まるで私の苦しみみたいなものを楽しんでるかのように思えてちょっとだけ複雑な気持ちだった。 多分彼女に悪気などないのだろうけど……でも、ただでさえ最近律のことで頭が混乱しているのに。 私のそんな思いとは裏腹に、彼女は意気揚々と口を開いた。 「第一問。りっちゃんと話すのは楽しい」 「……」 「はいかいいえで答えて」 彼女は人差し指――多分第一問という意味――を立てたまま、少しばかり不敵に笑った。 私はといえば第一問目から答えにくくて喉が詰まった。 話すのは楽しい。 それを頭で考えるとなると、簡単に律と会話している自分や光景が頭に浮かんだ。 出会ってからまだ十カ月程度だけど、たくさん話をした。 最初は大変だとか苦手だとか思ってたかもしれないけど、でもいつからか律と話すのは……。 「……はい」 「はいということは、楽しいというわけね」 確認まで取られた。私はすごく恥ずかしかった。 「……念のために言っておくけど、私が秋山さんと話したことは二人だけの秘密ね。 この会話の内容とか、秋山さんの質問の答えなんかも絶対に誰にも言わないから」 彼女は私の意志を汲み取った。 私は、自分の『律と話すのは楽しい』という答えが彼女を通していろんな人に伝わってしまうのではないかと一瞬だけ怖くなった。 もしかしたらその怖いという思いが表情に出てしまっていて、彼女はそれを読み取っただけなのかもしれない。 どちらにしても、他言しないというのは安心した。 しかし一体この質問に何の意味があるのだろう。 私の、律に対する感情が何なのか判断する……。 律のことを考えると胸が痛いとか、そういうものの原因がわかった時、私は平静でいられるのかな。 「第二問……の前に、大学に着いちゃったようね」 え? と前を見ると、すでに大学が目の前にあった。 彼女の質問は終わりなのだろうか。それはよかったかもしれないけど、でもこの感情が一体何なのか気にならないわけでもなかった。 だから逃れられたのは安堵する半面、まだ解消しきれていない不安が中途半端に残っている底気味の悪い感覚も胸に渦巻いている。 「秋山さん。昨日、私がりっちゃんをカラオケに誘ったの覚えてるわよね」 「……うん」 またしても脈絡のない質問に私はそれしか言えなかった。 彼女はまだ微笑んでいる。 「どう思った? これが第二問よ」 「――」 私は。 律が彼女にカラオケに誘われてて――もちろん二人っきりでではなく、律が大学に入って最初に仲良くなった数人のメンバーで行こうという意味だ。 律が他の誰か数人とカラオケに行かないかと誘われた時、私は……。 律に嫉妬した、ような気もするけど。 わからない。 でも、どうしようもなく不安になって。 律が離れていくような、律は私をどうとも思っていなくて、特別だとも何とも思っていないんじゃないかって。 変に律に対するモヤモヤが強くなった。それが何かもわからないまま。 律に対して、モヤモヤしてたのか。 それとも……。 私は戸惑ったまま返事をする。 「……胸が痛かった」 「――それよ! 聴かせてくれてありがとう」 彼女は何が聴きたかったのかわからないけど、それで満足したようだった。 そして掌を合わせて、謝るような仕草をした。 「昨日はりっちゃんをカラオケに誘っちゃってごめんね」 なぜそれを私に謝るのかよくわからない。 「実はね、昨日田井中さんをカラオケに誘って、私はこっそり抜け出して秋山さんと二人でお話しするつもりだったの。 あなたたち二人を見てると、とても楽しいのよ」 私たちを見ていると楽しい? それはどういうことなのだろうか。私はまだ彼女の事を――まだ、というよりこれからも知る必要はないのかもしれないけど…… 一体何が彼女を楽しくさせるのか見当もつかないぐらい知らないのだ。 赤の他人と言っても差支えないぐらい、私と彼女は交流がないのだから。 しかしどういうわけか、彼女は私の反応を楽しんでいるようだった。 本当に彼女はわからない。 さらには、昨日律をカラオケに誘ったのは、『律をカラオケに誘いたかった』からではなくて、『私と二人で話そうと思ったから』らしい。 ますますよくわからなくなってしまった。どうして私と二人で? 交流もあまりないのに。 しかもさっきから私と話したのは律の事じゃないか。 「なんで私と、二人で……?」 「うーん、まあ簡単に言うとね。いつも秋山さんはりっちゃんと一緒にいるでしょう? だから、秋山さんに『りっちゃんをどう思ってるか』みたいな話が、りっちゃんと一緒だとできないのよ。 カラオケにりっちゃんを誘ったら、多分あなたは行かなかった……そうなると秋山さんは一人で帰らなきゃならなくなる。 私はその秋山さんが一人の時に、二人で話そうと思ってたの」 そこまでして、私と話したいのはわかったけど。 でも、結局二人になって話したのは『律』のことだった。 それがまだ引っかかったままだった。 「でもさすがりっちゃんね……まさか断るなんて」 律は、友達のメンバーとカラオケに行くことを断った。 その理由を、澪がいないとつまんないと言ったのだ。 私はそれが、嬉しかったのかもしれない。 でもその嬉しさと同じぐらい、カラオケは断ったくせに理学部の子との食事会は行くのかって怒りみたいなのもでてきて。 それで、律にちょっとだけやつあたって……喧嘩にはならなかったけど、でもいつもより少しだけ気まずくなった。 それがたまらなく嫌でもあった。 「どうして、りっちゃんがカラオケを断ったかわかる?」 「……」 もう少しで大学の学科棟の正面玄関。 それでも、彼女は質問してきた。 これが、最後の質問なのかな。 「私がいないとつまらないって、律は」 「――さすがりっちゃんね。つまりそういうことよ」 「えっ?」 「それじゃあ私、友達待たせてるから。それに、私と秋山さんが一緒に玄関に入ったらりっちゃんがいい思いしないし」 「えっと、どういう……――」 「それじゃあね。頑張ってね秋山さん」 彼女は手を振って、一足先に玄関に入って行った。 頑張って。 私は、何を頑張ればいいんだろう。 彼女は一体、私に何を頑張ってほしいんだろうか。 私には、まだ何もわからない。 ■ 「おはよ澪」 律は入ってきた私に、いつものように挨拶をしてくれる。 しかし、私はいつも通りではなかった。 さっきまでの××さんとの会話が、尾を引いていたのだ。 それは悪い意味なのか良い意味なのかもわからない。 でも私は確かに、彼女と『律』についての会話をした。 『りっちゃんの事、好き?』 『恋愛感情としての、好きかってことよ?』――。 こんな質問が、頭の中を駆け巡っていた。 律の顔を見た途端、またその質問は――私の心が真っ白な空間だとしたら、大きな文字でその真っ白な世界に書き出されたような。 その文字が、思いっきり心に叩きつけられて、それがくっついてとれないような。 そんな質問が、浮かんで。 律の顔を見て。 なんて形容したらいいのかわからないぐらい、顔が熱くなった。 私は律の顔が直視できなくて。 これ以上律を見ていたら、私が爆発しちゃうんじゃないかってぐらい体中がどうしようもないくらいそわそわして、熱くなった。 私は俯いて、顔を見せないように言った。 「……おはよう」 「ん? なんで下向いてんだ?」 お前の顔を見たくないからだよ馬鹿。 見たいよ。そりゃ、律の顔。見てたら楽しいから。 ××さんに答えたように、律と話すのはとても楽しい。 話すためには、顔を見なきゃいけない。 いつも通り、講義大変だなとか課題どうとか、そういう他愛もない話をするためにはやっぱり律と顔を合わせなければいけないよ。 そんなの今まで普通にやってきてたし、そんなの当たり前だった。 だけど今はできなかった。 どうしてかって。 律の顔を見たら。 私は、変になる。 心臓がバクバク鳴って。その音だけで何にも聞こえなくなるぐらい。 私は、おかしい。 おかしいんだ。 律を見たら、私は変になるんだ。 「おい澪ー? 顔あげろよ」 「う、うるさい……とにかく行くぞ」 私は極力律を見ないように、歩きだした。 下を向いているのではなく、右隣に律がいるから、そっちを見ないように左側の方向ばかりを見ながら。 廊下に移り変わっても、私はとにかく律を見ないことだけを注意していた。 「おーい澪。何? 顔に怪我して見られたくないとか?」 いつまでも律は、私が目を合わせてくれないことについて怪しく思っているようだった。 私だって、律と顔を合わせれたらいいだろうけど。 でも、今日の私は途轍もなく変で、もう何を言っちゃうかわからない。 「違う……」 「じゃあなんでこっち見ないんだ? もしかして怒ってたり?」 私が律の何を怒らなきゃいけないんだ。 理学部の子との食事を了承したことか。 思いつくのはそれしかなかった。 結局、私は……そればっかりだ。 やっぱり、行ってほしくないと思ってるんだな私は。 それを言わないのも、逃げだけど。 なんで、行ってほしくないんだ? それは自分の感情なのに、答えが出せない。 律が食事に了解を出した時、なんで私はモヤモヤしたんだよ。 わからない。 わからないよ……。 17
https://w.atwiki.jp/83452/pages/17914.html
■ 2月7日 晴れ 澪に習って日記をつけ始めて、もう一カ月は経つ。 一回も澪は日記を見せてはくれないけど、日記って案外楽しそうだ。 面倒だけど、後で見返したらいろいろと面白そう。 今日、私のことを好きと言ってくれる子がいると友達から聞いた。 複雑な気持ちになった。嬉しいは嬉しいのだけど、応えられそうになかった。 しかもバレンタインに食事に誘われてしまった。 どうしよう。 そしたら澪の奴、行けばいいだろだなんて。 ショックと言えばショックだ。嘘かもしれないけど、でも。 断れって言ってほしかったなあ。 そんなのわがままか。 バレンタイン、澪はどうするのかなあ。 ■ 次の日。 私がいつものように大学の正面玄関から入ると、律が自動販売機の前で誰かと話していた。 「あ、澪だ。おーい、澪」 律がそう呼びかけてくれなかったら、私はその場に立ち止まって鞄を落としていただろう。 だけどそんな名前の呼びかけでなんとか立ち直り、私はゆっくりと二人に近づいた。 律ではないもう片方の人が見知らぬ人だと悟る。 私は緊張で喉が冷たくなっていったような気がした。 「おはよ澪」 「お、おはよう律……」 いつものように挨拶を交わす。だけど今だけは人前なので、私は思ったよりも全然声が出なかった。 元より声が出る質ではないけれど、本当にいつもよりも萎んだような声だと自分でもわかる。 律ではないもう一人は、髪留めをした茶色っぽい髪の女の子だった。 「おはよう、秋山さん」 「あ、えっと……おはよう、ございます……」 その人は甲高い澄んだような声で挨拶した。打って代わって私は、どうしようもないくらい小さな声で返した。 彼女に申し訳ない気持ちになった。 律は彼女を紹介した。 「澪、この人は平沢唯さん。私たちと同じ桜高だったらしいんだぜ」 「よろしくね秋山さん」 知り合い、だったんだろうか。平沢さんは、何とも言えない表情で私と律を交互に見ている。 私は黙っているのもバツが悪くなり、小さく返した。 「……はい」 同時に、平沢さんは腕時計を見た。 「私、人を待たせてるから、行くね!」 「そうなんだ」 「それじゃあね、二人とも」 彼女は裏を感じさせない笑顔のまま手を振って、その場を去って行った。 私と律は並んで、その後ろ姿を廊下を曲がっていくまで見ていた。 律はそれからふぅと息を吐いて、私を見た。 「じゃあ、私たちも行くか」 「……うん」 「どした、元気ないぞ澪」 「なんでもないよ」 誰のせいだと思ってんだよ。 講義室に向かって廊下を歩きながら、律に質問した。 「律は、平沢さんと高校時代から知り合いだったのか?」 「んーにゃ。さっきが初対面」 「じゃあなんで話を?」 「いや、向こうが話しかけてきたんだよ。バスケ部の田井中さんだよねって」 なんで律がバスケ部だったこと知ってるんだろ。 律ってそんな、名前も顔も知らない誰かさんに名前を覚えてもらえるぐらい有名人だったのかな。 そりゃ結構強かった(らしい)桜高のバスケ部の部長で、顔も良くって運動神経も良くて。 明るくて、友達簡単に作れて……相手を想いやれて優しくて。 そんな奴が有名じゃないわけがない。 でも私は知らなかったんだ。 幼い頃から、とにかくずっと誰かと一緒にいることから逃げてきたから。 話しかけてきてくれるのは嬉しかったかもしれないけど、口下手で会話は続かなくて、すぐに皆私から遠ざかっていく。 その度に私はごめんなさいと心の中で謝ってきた。 だから本当に周りに疎くて、世間にも疎いし学校のことにも疎かった。 「私、結構有名なんだな」 律は感心するように言った。 私としては、私が知らなかったことを皆が知っているという状況に怯えている。 いつもそうだ。 私と律は、同じ時間を過ごさなかったんだ。 ずっと同じ学校にいるのに、一緒にいたのはこの一年だけ。 それがずっと、呪いみたいにへばり付いてるんだ。 律が見た景色を、私は見ていない。 だから中学や高校時代に律と一緒にいればって後悔は嫌でもついてくるんだ。 「私は、知らなかったけどな」 「澪だって高校時代もっと活動的だったら有名人になれたかもよ」 「そ、そんなの私嫌だ」 「例えば、軽音部に入って学園祭で演奏するとかさ」 「……」 軽音部なんてあったっけ。 私はそんなささやかな疑問からぶち当たった別の疑問を投げかけた。 「律は小さい頃からドラムやってたんだよな? だったらなんで高校で軽音部入らなかったんだよ」 歩きながらそう問うと、律は寂しそうに笑顔をなくした。 私は何か聞いてはいけないことを聞いてしまったような気がして、ちょっとだけ後悔する。 でも律はすぐに笑った。それからまたいつものように明るい声で返す。 「そりゃ入ろうと思ったぜ。でも、部員がいなくてさ」 「部員がいない?」 「私が入学する前の卒業生で全員だったんだ。だから四月の内に部員を私含めて四人にしなきゃいけなかったんだけど……誰も来なくて」 入学して私は、文芸部に入った。 律には詩を書いていたとは言ったけど、正直そんなのどうでもよかった。 桜高はほとんどの人が部活に入っているので、むしろ部活に入っていない方が目立つ。 私はただ単に『部活に入っている』という事実が欲しくて文芸部に入ったのだ。 文芸部では一応詩を書いて活動していたけど、友達もいなかったし……結局普通の生活をして終わったように思う。 でも律は私と違って、やりたい! と思ったことができなかったんだ。 それは、経験していなくても悔しかったんだろうなあって思った。 「……結局、どうなったの?」 わかっていたけど、私は訊いた。 「軽音部? 廃部したよ。私もう悲しくってさー……まあでも、何か部活はやりたかったからバスケ部入ったけどな」 悲しくってさ、という言葉に悲しさはなかった。 でも一番悲しかったのは律なんじゃないかと思う。 もし私が幼い頃から律と一緒にいて、いろいろ話して。 お互い音楽の趣味が通じ合っていたら、軽音部に入っただろうか。 それはわからない。 実際幼い頃からずっと一緒にいたわけでもないし、もし私が音楽を律と一緒にやっていたとしても、 やはりバンドをやるのは少しばかり奥手になって軽音部に入ろうとはしないかもしれない。 文芸部に入ろうとするかもしれないし。 だけど結局軽音部に入ってしまうんじゃないかと思う。 多分、どんな世界であっても……私は律といることを選ぶ。 まあ律の性格なんだから、私が文芸部入ろうとしたら、入部届を破っちゃうだろうなあ 結局律に手をひかれて、軽音部に入る私。で、結局律と軽音部に入ってよかったと思う自分がたやすく想像できる。 「そっか。大変だったんだな」 「澪ともうちょっと早く会えてたら、無理やりにでも入れてたのになあ」 律は呑気にそう言った。 そういう発言が、いちいち私を苦しめてるんだぞ。 もっと早く出会えてたら。 それが、本当に悔やまれる。 「もし律と軽音部入ってたら……」 私は息を吐いた。 「……律と軽音部入ってたら、私、どうなったんだろう」 一緒にいられなかった過去を、『もしも』で振り返るのはとても辛い。 でも、気になることではある。 「……澪には、ファンクラブなんかもできたかもしれないぞ」 「なんで?」 どちらかといえば律の方にできるだろ。 「美人だしー、可愛いしー、ときどきかっこいいしー」 「お、おい、やめろって……」 律は冗談なのか本気なのか。 でも、なった『だろうな』である。 私は有名人になんかなりたくない。 静かならそれでいいのだ。 そこに律がいたらそれで。 ■ 二人で昼食を食べていたら、また××さんがやってきた。 「りっちゃん、どう? 返事決まった?」 返事というのは、その律のことが好きな『理学部の子』との食事会のことだろう。 律はまだそれに出てもいいかという誘いに乗っていない。断りもしていないし、了解もしていない状態なのだ。 当日まであと六日。 もしどこかで食事するとなればやっぱり予約とか諸々の準備がいるのだろう。 誘う側としては早く返事が欲しいのか。 「いや、まだ……だけど」 律はチラッと私を見た。 なんだよ、とは言えない。ただ、どうして私に一瞬でも目配せしたのかがわからなかった。 やっぱりこの話題を私の前で話すことに躊躇があるのかもしれない。 「できれば明日までに決めてね。お店の予約とかあるから」 「お、おう……じゃあ明日にでも」 「わかった。じゃあ彼女にもそう言っておくね。それじゃーね」 ××さんはそう言って、やってきた方向へ戻って行った。 律は私に向き直って、黙々と昼食のフレンチサラダを食べ始める。 私はその様子をただじっと見つめて、茫然としていた。 それに気付いた律は、苦笑いした。 「なんだよ、顔に何かついてるのか?」 「いや、なんでもない」 「……澪、最近なんでもない多いなあ」 律は呆れたように言うと、お茶を飲んだ。 私はそれを、自分自身でも確かに知っていた。 律に言っちゃいけないような事や、悟られてはいけないような気持ちが増えているかもしれなかった。 だから、そういうものが無意識に表情に出た時、私は誤魔化すために『なんでもない』と言葉にする。 だけど、やっぱり律はそんなのお見通しかもしれないし、何度も同じこと言っていたらさすがにおかしいと思うのだろう。 「なんでもないよ」 「ほらまた言った」 「本当になんでもないから……」 「いーやなんでもなくないね。澪ちゃんの悩みはりっちゃんの悩みだぞ」 私の気持ちなんて何にもわかってないくせに。 だけどそうは言えなかった。 そりゃ私は私の気持ちを律に言っていないのだから、それを律が理解していないのは当然だ。 その子の誘いに乗っかることは別に私に何の影響もない。 別に律は誘いに了承してもいい。 私にメリットもデメリットも存在しないはずなのに……心はそれを拒んでること。 なんで拒んでいるのか、わからないことも。 律に言う必要はない。 「ほら、言ってみろ」 「本当に何でもないんだ。律に言うほどでもないし……」 「私に言うほどでもないってことは、やっぱりなにか悩んでんのかよ」 もうやめてくれよ。 「だから言うほどでもないって言ってるだろ」 言ったら、何かが変わってしまいそうで嫌だった。 言えばいいのかよ。 その子のお誘い、断ってくれって? そしたらどうしてって律は私に言うんだろう。 でも、私はその「どうして」に答えられないんだ。 『どうして』、律にその子の誘いを断ってほしいのかわからない。 私は私が、一番分からないよ……。 「……もういいよ」 律は不服そうに食事を再開した。 私は律に心の中で謝りながら、箸を持った。 それから昼食の間は、まったく喋れなかった。 ■ 2月8日 晴れ 澪が何かに悩んでるみたいだけど教えてくれなかった。 そんなに私、信用ないのかな。それはちょっとショックだ。 お食事会、どうしよう。 あんまり乗り気じゃないけど、でも気持ちはありがたい気もするし……。 本当は澪と一緒がいいのだけど、それも言えないし。 悩む。また澪に意見を聞くのも、どうかと思うし。 あー、どうしようかな。 15
https://w.atwiki.jp/bokumonodata/
牧場物語@wikiへようこそ ここは牧場物語全シリーズの情報共有を目的としたWikiです。 牧場物語を愛するコロボックル達の手で作られています。 コロボックルの家 同人@牧場物語同人 http //yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/doujin/1236755911/ シリーズタイトル 据え置き機 牧場物語(1996年/SFC) 牧場物語2(1997年/N64) 牧場物語~ハーベストムーン~(1999年/PS) 牧場物語~ハーベストムーン for ガール~(2000年/PS) 牧場物語3ハートに火をつけて(2001/PS2) 牧場物語ワンダフルライフ(2003年/GC) 牧場物語ワンダフルライフ for ガール(2004年/GC) 牧場物語Oh!ワンダフルライフ(2004年/PS2) 牧場物語しあわせの詩(2005年GC) 牧場物語しあわせの詩 for ワールド(2005年/GC) 牧場物語やすらぎの樹(2007年/Wii) 牧場物語わくわくアニマルマーチ(2008年/Wii) 携帯ゲーム機 牧場物語GB(1997年/GB) 牧場物語GB2(1999年/GB&GBカラー) 牧場物語GB3ボーイ・ミーツ・ガール(2000年/GBカラー) 牧場物語ミネラルタウンのなかまたち(2003/GBカラー) 牧場物語ミネラルタウンのなかまたち for ガール(2003年/GBカラー) 牧場物語コロボックルステーション(2005年/DS) 牧場物語コロボックルステーション for ガール(2005年/DS) 牧場物語ハーベストムーンボーイ ガール(2005年/PSP) 牧場物語キミと育つ島(2007年/DS) 牧場物語キラキラ太陽となかまたち(2008年/DS) 牧場物語ようこそ!風のバザールへ(2008年/DS) 牧場物語シュガー村とみんなの願い(2009年/PSP) 牧場物語ふたごの村(2010年/DS) 新牧場物語 ルーンファクトリー(2006年/DS) イノセントライフ(2006年/PSP) 新牧場物語ピュアイノセントライフ(2007年/PS2) TheBest版(上記のタイトルと重複表記有) 牧場物語ハーベストムーン(1999年/PS) 牧場物語ハーベストムーンforガール(2004年/PS) 牧場物語3ハートに火をつけて(2004年/PS2) 牧場物語 Oh!ワンダフルライフ(2005年/PS2) 牧場物語3ハートに火をつけて(2006年/PS2/注 上記の物の廉価版) 牧場物語 ハーベストムーン ボーイ ガール(2006年/PSP) ■ウィキはみんなで気軽にホームページ編集できるツールです。 ■このページは自由に編集する事ができます。 ■メールで送られてきたパスワードを用いてログインすることで、各種変更(サイト名、トップページ、メンバー管理、サイドページ、デザイン、ページ管理、等)することができます。 まずはこちらをご覧ください。 @wikiの基本操作 用途別のオススメ機能紹介 @wikiの設定/管理 おすすめ機能 気になるニュースをチェック 関連するブログ一覧を表示 その他にもいろいろな機能満載!! @wikiプラグイン @wiki便利ツール @wiki構文 バグ・不具合を見つけたら? お手数ですが、こちらからご連絡宜しくお願いいたします。 ⇒http //atwiki.jp/guide/contact.html 分からないことは? @wiki ご利用ガイド よくある質問 @wikiへお問い合わせ 等をご活用ください